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学習記事|5. 資金繰り・資金予測

利益があっても、
会社のお金はなくなる。

だから、資金繰りが必要です。

資金繰りとは何か

難易度 レベル0から7へ段階的に深まります 所要時間基本編8分/全体20分 前提知識なし
⏱ 30秒で理解

資金繰りとは、会社のお金が「いつ・いくら入って、いつ・いくら出るか」を管理し、支払いの日にお金が足りない状態を起こさないようにすることです。

損益計算書の「利益」と、銀行口座の「現金」は別物です。利益が出ていても、支払日に現金がなければ会社は止まります。資金繰りは、この「現金」を守る仕事です。

なぜ資金繰りが必要なのか

会社は赤字でもすぐには倒産しません。しかし、支払日に現金がなければ、黒字でも倒産します。これを黒字倒産と呼びます。給与、仕入代金、税金、借入の返済は、決められた日に必ず現金で払わなければなりません。

経理担当者にとって資金繰りは「帳簿を締める仕事」ではなく「会社を止めない仕事」です。

仕組み:お金の入りと出は、3種類しかない

本業の入金売上代金の回収−本業の支払い仕入・給与・経費・税金=経常収支本業で残るお金
+ 設備投資・資産売却経常外収支+ 借入・返済・増資・配当財務収支
資金繰り表の3つの区分。経常収支がプラスであることが、健全な資金繰りの土台です。

大切なのは、売上が立った日と、現金が入る日はズレるということです。商品を納品した日に売上は計上されますが、代金は「翌月末」「翌々月末」に入金されます。この間、会社は売掛金(売ったけれど、まだもらっていないお金)を抱えます。逆に仕入代金は買掛金(買ったけれど、まだ払っていないお金)として、あとで払います。このズレが資金繰りの正体です。

数字で見る:ある月の資金繰り

株式会社さくら(売上高100億円、月商約8億円)のある月です。まず結果の数字だけ見てください。

月初の残高
3.0億円
→
本業で残ったお金(経常収支)
−0.1億円
→
設備投資
−1.0億円
→
借入(返済差引後)
+0.6億円
→
月末の残高
2.5億円

本業だけでは今月わずかに足りず、設備投資1億円は借入で賄い、月末残高は月初より0.5億円減りました。月末残高2.5億円は月商の0.3か月分で、翌月の給与と仕入支払い(合計約6.8億円)を考えると、入金が遅れたときの余裕はほとんどありません。

資金繰り表そのものを見る百万円単位・行ごとの読み方付き
項目金額(百万円)読み方
前月繰越(月初の現金預金残高)300月初に口座にあるお金
売上代金の入金(売掛金の回収)8002か月前の売上が入金される
仕入代金の支払い(買掛金の支払い)−500先月の仕入を払う
給与・賞与・社会保険料−180賞与月は倍近くになる
経費(家賃・光熱費・外注費など)−70
税金(法人税・消費税)−60納付月に集中する
経常収支−10本業だけでは今月わずかに不足
設備投資の支払い−100新しい生産設備の代金
経常外収支−100
借入金の返済(約定返済)−40毎月決まった返済
新規借入+100設備投資のための長期借入
財務収支+60
翌月繰越(月末の現金預金残高)250300−10−100+60=250
この表から分かること
  • 経常収支がマイナス10百万円。理由が賞与か税金か、売上回収の遅れかを確認する。
  • 設備投資100百万円を、同額の長期借入で賄っている。長く使う資産を短い期間の資金で賄うと資金繰りが苦しくなる(資金の期間対応)。

資金繰り担当の1か月

  1. 月初:先月の予定と実績の差を分析する(予実比較)。
  2. 毎日:銀行残高を確認し、当日の入金予定と支払予定を照合する。入金が遅れている取引先には営業部門経由で確認する。
  3. 支払日の前日:翌日の支払総額に対して残高が足りているか確認し、必要なら口座間の資金移動を手配する。
  4. 月中:翌月・翌々月の予定を更新する。賞与・税金・設備投資・借入返済など大きな支払いを先に書き込む。
  5. 不足が見えたら:不足額・時期・原因を財務担当者と共有し、借入や当座貸越の利用を検討する。
いちばん大切なこと

資金不足が「明日」分かるのと「3か月前」に分かるのとでは、取れる手段がまったく違います。3か月前なら銀行に借入を申し込めます。明日では選択肢がほとんどありません。シミュレーション「明日の支払い資金が足りない」で、その違いを体験してください。

先を見る道具:13週間資金繰り表

月次の表では、月の途中の不足を見落とします。「月末残高はプラスだが、20日の賞与支払日にはマイナス」ということは月次表には表れません。そこで多くの会社が13週間資金繰り表(約3か月を週単位で見る表)を使います。

見る期間
13週
約3か月。借入の申込から実行までの期間をカバーする
更新頻度
毎週
1週間分を実績に置き換え、先の1週間を足す
必要残高
事前設定
「この金額を下回ったら警告」の下限を決めておく

13週間資金繰り表の本質は精度ではなく早さです。第7週に不足しそうだと分かれば、第2週のうちに手を打てます。

売上が増えると、なぜ苦しくなるのか

売上が増えると、売掛金と在庫が増えます。つまり「立て替えているお金」が増えます。この立て替え額を運転資本と呼び、売掛金+在庫-買掛金で計算します。

売上100億円のとき
20.9億円
立て替え(運転資本)
→
売上150億円に成長
31.3億円
立て替え(運転資本)
=
追加で必要な現金
+10.4億円
利益が入る前に

売上が50億円増えると、利益が入る前に約10億円の現金が追加で必要になります。これが「売れば売るほど資金繰りが苦しくなる」正体です。

計算の内訳を見る回転日数とCCC
売上100億円売上150億円増加額
売掛金(残高を月商で日数換算:約61日、簡易値)16.7億円25.0億円+8.3億円
在庫(残高を月商で日数換算:約46日、簡易値)12.5億円18.8億円+6.3億円
買掛金(残高を月商で日数換算:約30日、簡易値)−8.3億円−12.5億円−4.2億円
運転資本20.9億円31.3億円+10.4億円

売掛金・在庫・買掛金を日数で表したものを回転日数といい、その合計をキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)と呼びます。標準的には、在庫は売上原価、買掛金は仕入高(買掛金に対応する掛仕入高)を分母にしますが、さくらの売上原価・仕入高がまだ分からないため、ここでは3つとも月商(売上高)を基準にした「売上高基準の簡易運転資金日数」として計算します(標準的なCCCとは分母が異なる、別の指標です)。上の表の「約61日」「約46日」「約30日」は、あくまで残高を月商(年商÷12)で日数換算した簡易値であり、実際の回収サイト・支払サイト(契約上の入金・支払期日)そのものではない点に注意してください。各構成日数を先に整数に丸めてから合計すると61日+46日-30日=77日になります(未丸め計算では、60.955日+45.625日-30.295日=約76.3日)。この日数の計算方法と、標準CCCとの違いは「回転日数とキャッシュ・コンバージョン・サイクル」で詳しく扱います。77日分の売上に相当するお金を、会社が立て替えていることになります。

3つの視点で見る資金繰り

経理レベル0〜2

今月の支払いに足りるか。

資金繰り表を正確に作り、残高を守る。入金の遅れと大きな支払いを先に把握する。

財務レベル3〜6

不足をどう調達し、いくら持つか。

不足の性質に合った調達手段を選び、銀行と交渉し、手元資金の水準を決める。

CFOレベル7

余った現金を、どう使えば企業価値が上がるか。

資金繰りは制約ではなく、投資・M&A・株主還元の原資。

経理・財務ではどう考えるか10の観点で資金繰りを整理
現金
資金繰りはそのまま現金の動きです。「いつ・いくら」を日付付きで押さえます。
貸借対照表
貸借対照表の現金預金、売掛金、在庫、買掛金、借入金が動きます。資金繰りの改善は、売掛金・在庫を減らし、買掛金を適正に保ち、借入を計画的にすることです。
損益計算書
資金繰りそのものは損益に出ません。ただし借入の利息(支払利息)、早期回収の値引き、遅延損害金などが費用として現れます。
キャッシュフロー計算書
経常収支は営業活動、経常外収支は投資活動、財務収支は財務活動にほぼ対応します。キャッシュフロー計算書は「過去の決算書」、資金繰り表は「未来の管理表」という違いがあります。
仕訳
入金:(借方)現金預金/(貸方)売掛金。支払い:(借方)買掛金/(貸方)現金預金。借入:(借方)現金預金/(貸方)借入金。資金繰り表の各行は、必ず現金預金を含む仕訳に対応します。
決算
決算月は法人税・消費税・賞与・配当が重なりやすく、資金繰りが最も厳しくなります。決算日の現金残高は貸借対照表に載り、銀行や投資家が見ます。
税務
法人税・消費税の中間納付と確定納付の時期と金額を、資金繰り表に先に書き込みます。納付が遅れると延滞税が発生します。
内部統制
資金繰り表を作る人、支払いを実行する人、銀行残高を確認する人を分けます(職務分掌)。
システム
会計システムの売掛金・買掛金の期日データ、銀行の入出金データ、給与システムの支払データを集めれば、資金繰り表の大部分は自動で作れます。CMS・TMSはこの自動化と可視化を担います。
CFO
「不足の有無」ではなく「余裕の大きさ」と「その余裕の使い道」で見ます。下のCFO編へ。
レベル3 財務担当が見る資金繰り調達の根拠として使う

財務担当者は、資金繰り表を「調達の根拠」として使います。見ているのは次の3点です。

  • 不足の性質:一時的な不足(賞与月だけ)なら当座貸越や短期借入。構造的な不足(売上成長による運転資本の増加)なら長期借入や融資枠。設備投資なら長期借入か社債。
  • 期間の対応:長く使う資産は長い期間の資金で、短い立て替えは短い資金で賄う。これがズレると、返済期日ごとに借換え(今の借入を新しい借入で返し直すこと)に追われます。
  • 銀行への説明:銀行は「なぜ足りないのか」「いつ返せるのか」を聞きます。13週間資金繰り表と運転資本の分析があれば、その場で答えられます。
レベル6 財務部長が見る資金繰りいくら持つかを決める

財務部長は、個々の月の不足ではなく「会社としてどれだけの手元資金を持つか」という水準を決めます。これを手元流動性(すぐ支払いに使えるお金)の方針といいます。

  • 必要手元資金:月商の何か月分を最低限持つか。売上が急に3割減っても6か月は支払いを続けられるか、といったストレス想定で決めます。
  • 融資枠との組み合わせ:現金を積み上げる代わりに、コミットメントライン(いつでも借りられる契約上の枠)を確保する。現金を持つコストと、枠の手数料(コミットメントフィー)を比較します。
  • 経営会議への報告:「今月足りるか」ではなく「3か月先まで安全か」「1年先の返済に備えているか」「銀行との関係は健全か」を報告します。
  • 運転資本の改善:回収サイトの短縮、在庫の圧縮、支払条件の見直し。営業・購買・製造を巻き込む全社活動として設計します。
レベル7 CFOが見る資金繰り余った現金の使い道を決める

CFOにとって、資金繰りが安定していることは出発点にすぎません。現金には資本コスト(お金を調達するために払っている平均的なコスト)がかかっています。必要以上の現金を持てば、投下資本利益率(事業に投じたお金に対する利益の割合)が下がり、株主から「現金を寝かせている」と指摘されます。逆に少なすぎれば、危機のときに戦略を実行できません。

CFOが比べているのは「安全のために持つ価値」と「持ち続けるコスト」です。この判断はCFOルーム「現金500億円は多すぎるのか?」で扱います。

よくある間違い

「利益が出ているから大丈夫」利益は現金ではない。売掛金と在庫が増えれば、利益が出ても現金は減る。
「月末残高がプラスなら安全」月中の支払日に不足することがある。週単位・日単位で見る。
「足りなくなってから銀行へ」借入は申込から実行まで数週間かかる。13週間先を見て動く。
「エクセルで十分」口座と子会社が増えると、データ集めが仕事になる。→ 財務管理システム

Q&A

資金繰り表とキャッシュフロー計算書は何が違うのですか?
キャッシュフロー計算書は「過去の一定期間に現金がどう動いたか」を示す決算書で、会計基準に従って作ります。資金繰り表は「これから現金がどう動くか」を管理するための社内資料で、形式は自由です。区分はほぼ対応しますが、目的が違います。
資金繰り表は誰が作るべきですか?
小さな会社では経理担当者が作ります。会社が大きくなると、経理部が実績と売掛金・買掛金のデータを提供し、財務部が予測と調達を担当する分担が一般的です。重要なのは、作る人と支払いを実行する人を分けることです。
黒字なのに、なぜ会社のお金がなくなるのですか?
売掛金の増加、在庫の増加、設備投資、借入の返済が主な理由です。Q&Aページで数字を使って説明しています。

確認問題

問1:売上が急に増えたとき、資金繰りは一般にどうなりますか?
問2:資金繰り表で「経常収支」に含まれないものはどれですか?
次に学ぶ
納税・社会保険料と資金繰り
→
情報源
  • 企業会計基準委員会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」(営業・投資・財務の3区分の考え方)
  • 中小企業庁「中小企業の会計に関する基本要領」および同庁公開の資金繰り表様式(経常収支・経常外収支・財務収支の区分)
  • 国税庁「法人税の中間申告」「消費税の中間申告」に関する案内(納付時期)
最終更新日:2026年9月5日|本記事の数値は架空企業「株式会社さくら」の設定値です。