利益があっても、
会社のお金はなくなる。
だから、資金繰りが必要です。
資金繰りとは何か
資金繰りとは、会社のお金が「いつ・いくら入って、いつ・いくら出るか」を管理し、支払いの日にお金が足りない状態を起こさないようにすることです。
損益計算書の「利益」と、銀行口座の「現金」は別物です。利益が出ていても、支払日に現金がなければ会社は止まります。資金繰りは、この「現金」を守る仕事です。
なぜ資金繰りが必要なのか
会社は赤字でもすぐには倒産しません。しかし、支払日に現金がなければ、黒字でも倒産します。これを黒字倒産と呼びます。給与、仕入代金、税金、借入の返済は、決められた日に必ず現金で払わなければなりません。
経理担当者にとって資金繰りは「帳簿を締める仕事」ではなく「会社を止めない仕事」です。
仕組み:お金の入りと出は、3種類しかない
大切なのは、売上が立った日と、現金が入る日はズレるということです。商品を納品した日に売上は計上されますが、代金は「翌月末」「翌々月末」に入金されます。この間、会社は売掛金(売ったけれど、まだもらっていないお金)を抱えます。逆に仕入代金は買掛金(買ったけれど、まだ払っていないお金)として、あとで払います。このズレが資金繰りの正体です。
数字で見る:ある月の資金繰り
株式会社さくら(売上高100億円、月商約8億円)のある月です。まず結果の数字だけ見てください。
本業だけでは今月わずかに足りず、設備投資1億円は借入で賄い、月末残高は月初より0.5億円減りました。月末残高2.5億円は月商の0.3か月分で、翌月の給与と仕入支払い(合計約6.8億円)を考えると、入金が遅れたときの余裕はほとんどありません。
資金繰り表そのものを見る百万円単位・行ごとの読み方付き
| 項目 | 金額(百万円) | 読み方 |
|---|---|---|
| 前月繰越(月初の現金預金残高) | 300 | 月初に口座にあるお金 |
| 売上代金の入金(売掛金の回収) | 800 | 2か月前の売上が入金される |
| 仕入代金の支払い(買掛金の支払い) | −500 | 先月の仕入を払う |
| 給与・賞与・社会保険料 | −180 | 賞与月は倍近くになる |
| 経費(家賃・光熱費・外注費など) | −70 | |
| 税金(法人税・消費税) | −60 | 納付月に集中する |
| 経常収支 | −10 | 本業だけでは今月わずかに不足 |
| 設備投資の支払い | −100 | 新しい生産設備の代金 |
| 経常外収支 | −100 | |
| 借入金の返済(約定返済) | −40 | 毎月決まった返済 |
| 新規借入 | +100 | 設備投資のための長期借入 |
| 財務収支 | +60 | |
| 翌月繰越(月末の現金預金残高) | 250 | 300−10−100+60=250 |
- 経常収支がマイナス10百万円。理由が賞与か税金か、売上回収の遅れかを確認する。
- 設備投資100百万円を、同額の長期借入で賄っている。長く使う資産を短い期間の資金で賄うと資金繰りが苦しくなる(資金の期間対応)。
資金繰り担当の1か月
- 月初:先月の予定と実績の差を分析する(予実比較)。
- 毎日:銀行残高を確認し、当日の入金予定と支払予定を照合する。入金が遅れている取引先には営業部門経由で確認する。
- 支払日の前日:翌日の支払総額に対して残高が足りているか確認し、必要なら口座間の資金移動を手配する。
- 月中:翌月・翌々月の予定を更新する。賞与・税金・設備投資・借入返済など大きな支払いを先に書き込む。
- 不足が見えたら:不足額・時期・原因を財務担当者と共有し、借入や当座貸越の利用を検討する。
資金不足が「明日」分かるのと「3か月前」に分かるのとでは、取れる手段がまったく違います。3か月前なら銀行に借入を申し込めます。明日では選択肢がほとんどありません。シミュレーション「明日の支払い資金が足りない」で、その違いを体験してください。
先を見る道具:13週間資金繰り表
月次の表では、月の途中の不足を見落とします。「月末残高はプラスだが、20日の賞与支払日にはマイナス」ということは月次表には表れません。そこで多くの会社が13週間資金繰り表(約3か月を週単位で見る表)を使います。
13週間資金繰り表の本質は精度ではなく早さです。第7週に不足しそうだと分かれば、第2週のうちに手を打てます。
売上が増えると、なぜ苦しくなるのか
売上が増えると、売掛金と在庫が増えます。つまり「立て替えているお金」が増えます。この立て替え額を運転資本と呼び、売掛金+在庫-買掛金で計算します。
売上が50億円増えると、利益が入る前に約10億円の現金が追加で必要になります。これが「売れば売るほど資金繰りが苦しくなる」正体です。
計算の内訳を見る回転日数とCCC
| 売上100億円 | 売上150億円 | 増加額 | |
|---|---|---|---|
| 売掛金(残高を月商で日数換算:約61日、簡易値) | 16.7億円 | 25.0億円 | +8.3億円 |
| 在庫(残高を月商で日数換算:約46日、簡易値) | 12.5億円 | 18.8億円 | +6.3億円 |
| 買掛金(残高を月商で日数換算:約30日、簡易値) | −8.3億円 | −12.5億円 | −4.2億円 |
| 運転資本 | 20.9億円 | 31.3億円 | +10.4億円 |
売掛金・在庫・買掛金を日数で表したものを回転日数といい、その合計をキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)と呼びます。標準的には、在庫は売上原価、買掛金は仕入高(買掛金に対応する掛仕入高)を分母にしますが、さくらの売上原価・仕入高がまだ分からないため、ここでは3つとも月商(売上高)を基準にした「売上高基準の簡易運転資金日数」として計算します(標準的なCCCとは分母が異なる、別の指標です)。上の表の「約61日」「約46日」「約30日」は、あくまで残高を月商(年商÷12)で日数換算した簡易値であり、実際の回収サイト・支払サイト(契約上の入金・支払期日)そのものではない点に注意してください。各構成日数を先に整数に丸めてから合計すると61日+46日-30日=77日になります(未丸め計算では、60.955日+45.625日-30.295日=約76.3日)。この日数の計算方法と、標準CCCとの違いは「回転日数とキャッシュ・コンバージョン・サイクル」で詳しく扱います。77日分の売上に相当するお金を、会社が立て替えていることになります。
3つの視点で見る資金繰り
今月の支払いに足りるか。
資金繰り表を正確に作り、残高を守る。入金の遅れと大きな支払いを先に把握する。
不足をどう調達し、いくら持つか。
不足の性質に合った調達手段を選び、銀行と交渉し、手元資金の水準を決める。
余った現金を、どう使えば企業価値が上がるか。
資金繰りは制約ではなく、投資・M&A・株主還元の原資。
経理・財務ではどう考えるか10の観点で資金繰りを整理
レベル3 財務担当が見る資金繰り調達の根拠として使う
財務担当者は、資金繰り表を「調達の根拠」として使います。見ているのは次の3点です。
- 不足の性質:一時的な不足(賞与月だけ)なら当座貸越や短期借入。構造的な不足(売上成長による運転資本の増加)なら長期借入や融資枠。設備投資なら長期借入か社債。
- 期間の対応:長く使う資産は長い期間の資金で、短い立て替えは短い資金で賄う。これがズレると、返済期日ごとに借換え(今の借入を新しい借入で返し直すこと)に追われます。
- 銀行への説明:銀行は「なぜ足りないのか」「いつ返せるのか」を聞きます。13週間資金繰り表と運転資本の分析があれば、その場で答えられます。
レベル6 財務部長が見る資金繰りいくら持つかを決める
財務部長は、個々の月の不足ではなく「会社としてどれだけの手元資金を持つか」という水準を決めます。これを手元流動性(すぐ支払いに使えるお金)の方針といいます。
- 必要手元資金:月商の何か月分を最低限持つか。売上が急に3割減っても6か月は支払いを続けられるか、といったストレス想定で決めます。
- 融資枠との組み合わせ:現金を積み上げる代わりに、コミットメントライン(いつでも借りられる契約上の枠)を確保する。現金を持つコストと、枠の手数料(コミットメントフィー)を比較します。
- 経営会議への報告:「今月足りるか」ではなく「3か月先まで安全か」「1年先の返済に備えているか」「銀行との関係は健全か」を報告します。
- 運転資本の改善:回収サイトの短縮、在庫の圧縮、支払条件の見直し。営業・購買・製造を巻き込む全社活動として設計します。
レベル7 CFOが見る資金繰り余った現金の使い道を決める
CFOにとって、資金繰りが安定していることは出発点にすぎません。現金には資本コスト(お金を調達するために払っている平均的なコスト)がかかっています。必要以上の現金を持てば、投下資本利益率(事業に投じたお金に対する利益の割合)が下がり、株主から「現金を寝かせている」と指摘されます。逆に少なすぎれば、危機のときに戦略を実行できません。
CFOが比べているのは「安全のために持つ価値」と「持ち続けるコスト」です。この判断はCFOルーム「現金500億円は多すぎるのか?」で扱います。
よくある間違い
Q&A
資金繰り表とキャッシュフロー計算書は何が違うのですか?
資金繰り表は誰が作るべきですか?
黒字なのに、なぜ会社のお金がなくなるのですか?
確認問題
- 企業会計基準委員会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」(営業・投資・財務の3区分の考え方)
- 中小企業庁「中小企業の会計に関する基本要領」および同庁公開の資金繰り表様式(経常収支・経常外収支・財務収支の区分)
- 国税庁「法人税の中間申告」「消費税の中間申告」に関する案内(納付時期)