用語辞典|7. 資金調達・借入金管理

既存有利子負債

きぞん・ゆうりし・ふさい
Existing Debt
レベル3 財務担当
「一言でいうと」と「具体例」は
レベル0の方も読めます
一言でいうと

今回の取引(借換え・買収・新規借入など)をする前から、会社にすでにある「利息を払う借金」の合計。

会社の借金のうち、利息を払うもの(銀行借入、社債、コマーシャルペーパー、リース債務など)を有利子負債といいます。買掛金のように利息を払わない負債は含みません。新しい借入や買収の話をするとき、「その前からある分」を区別して既存有利子負債と呼びます。

所要時間約8分前提知識貸借対照表とは何か、当座貸越と融資枠の基本推奨履修範囲レベル2修了チェックまでよく出る場面借換え、M&A、社債発行、銀行交渉、格付

数字で見る

さくらグローバルが、他社を買収するために新たに50億円を借りる場面です。

既存有利子負債
150億円
銀行借入100+社債50
+
今回の新規借入
50億円
買収資金
=
取引後の有利子負債
200億円
銀行・投資家はここを見る

「既存有利子負債がいくらか」を正しく押さえないと、取引後の借入総額も、返済能力の指標も計算できません。だから資金調達やM&Aの資料では、必ず最初にこの数字が出てきます。

返済能力の指標まで計算する純有利子負債とEBITDA倍率
項目金額(億円)説明
銀行借入金(長期)100取引前からある
社債50取引前からある
既存有利子負債(Existing Debt)150100+50
今回の新規借入(買収資金)+50New Debt と呼ばれることもある
取引後の有利子負債200150+50
現金預金−40すぐ返済に使える現金を差し引く
純有利子負債(Net Debt)160200-40
EBITDA(年間)
40億円
本業がおおまかに生む現金
純有利子負債÷EBITDA
4.0倍
負債の重さをおおまかに測る指標。取引前は2.75倍
年間支払利息(平均1.0%の例)
2.0億円
取引前1.5億円→取引後2.0億円

この4.0倍という数字は、「4年で返済できる」という意味ではありません。EBITDAはまだ、運転資本の増減・法人税等・設備投資を差し引く前の数字だからです。実際に返済へ回せるお金(返済原資)を見るには、次の順で考える必要があります。

段階差し引くもの
EBITDA(起点)減価償却費・利息・税金を足し戻した、本業のおおまかな稼ぐ力
↓ 営業活動によるキャッシュフロー運転資本(売掛金・在庫・買掛金)の増減、法人税等の支払額を差し引く。支払利息は、会社の方針により営業活動または財務活動のどちらかに表示される(注記の対象)。
↓ 設備投資支出額を差し引く設備投資・資産の取得にかかった支出額(正の金額)を差し引く。この支出は、キャッシュ・フロー計算書では投資活動によるキャッシュフローの中にマイナスの数値として表れるが、ここでは「支出した金額」として正の値で扱う。
= フリーキャッシュフロー(FCF)本教材では、FCF=営業活動によるキャッシュフロー-設備投資支出額(正の金額)、と定義します。

ここでいう「設備投資支出額」は、支出した金額そのものを正の値で表したものであり、キャッシュ・フロー計算書上の「投資活動によるキャッシュフロー」(符号付きの数値で、設備投資があれば通常マイナス)とは同じではありません。両者を混同して「FCF=営業CF-投資活動によるキャッシュフロー」と計算すると、投資活動によるキャッシュフローのマイナス符号によって差し引きの向きが逆になり、誤った金額になります。また、支払利息が営業活動によるキャッシュフローにすでに含まれている場合(会社の選択)、FCFの段階であらためて差し引くと二重に控除してしまうため、本教材のFCFの定義では、利息を別途差し引く操作は行いません。法人税等の支払額は、通常すでに営業活動によるキャッシュフローの中に含まれています。純有利子負債÷EBITDAは、あくまで負債の重さを他社や過去の自社と比べるための、大まかなレバレッジ指標です。

3つの視点で理解する

経理レベル0〜2

残高はいくらか。

  • 貸借対照表の短期借入金・長期借入金・社債・CP・リース債務を合計する。
  • 返済すれば残高が減り、利息は「支払利息」として費用になる。
財務レベル3〜6

条件はどうなっているか。

  • 借入ごとの金利・返済期限・担保・財務制限条項(守るべき財務上の約束)を一覧にする。
  • 返済期限が集中していれば、借換えで分散する。
CFOレベル7

借りたあとも、次に耐えられるか。

  • 取引後の純有利子負債÷EBITDAと、格付への影響を判断する。
  • 「借りられるか」ではなく「次の危機・次の投資への余力が残るか」で決める。
仕訳への影響借入・利息・借換え・決算の4場面
以下は典型的な例です。実際の会計処理は契約内容・取引実態・適用する会計基準等によって異なる場合があります。

既存有利子負債そのものは「残高」なので仕訳はありません。しかし、それが動く場面の仕訳を知っておくと、貸借対照表のどこがどう変わるかが分かります。

① 新規に50億円を借り入れたとき(既存150億円→合計200億円)
借方金額貸方金額
現金預金50億円長期借入金50億円
現金と借入金が同時に増える。利益には影響しない。
② 利息を支払ったとき(年1.0%・半年分の例)
借方金額貸方金額
支払利息1.0億円現金預金1.0億円
支払利息は損益計算書の営業外費用。ここで初めて利益が減る。
③ 既存の借入100億円を新しい借入100億円で借り換えたとき
借方金額貸方金額
現金預金100億円長期借入金(新)100億円
長期借入金(旧)100億円現金預金100億円
残高は変わらない。変わるのは金利・返済期限・契約条件。借換えに伴う手数料の処理は、その性質や金額により費用処理・繰延処理などが分かれる。
④ 決算時:1年以内に返済する分を振り替える
借方金額貸方金額
長期借入金20億円1年内返済予定の長期借入金20億円
1年基準により、貸借対照表で固定負債から流動負債へ。銀行や投資家は「1年内返済予定」の大きさを必ず見る。
経理・財務ではどう考えるか10の観点
現金
返済期日ごとに現金が出ていく。返済予定表を資金繰り表に反映する。
貸借対照表
負債の部の借入金・社債・CP・リース債務。取引後は合計が増える(または借換えで構成が変わる)。
損益計算書
支払利息(営業外費用)。金利上昇時は変動金利部分の利息が増える。
キャッシュフロー計算書
借入・返済は財務活動。利息の支払いは営業活動または財務活動に表示する(会社が選択し、継続適用する)。
仕訳
上の①〜④のとおり。
決算
借入金明細の開示、担保資産の注記、財務制限条項に抵触していないかの確認。抵触していれば長期借入でも流動負債に分類し直す論点がある。
税務
支払利息は原則損金。ただしグループ会社間や海外からの借入では、過大支払利子税制や移転価格の観点で利息の妥当性を確認する。
内部統制
借入契約の締結権限、借入残高と銀行残高証明の照合、返済期日の管理、契約書原本の保管。
システム
財務管理システム(TMS)で借入ごとの金利・返済スケジュール・契約条件を管理し、会計システムに利息と返済の仕訳を連携する。
CFO
取引後の純有利子負債÷EBITDA、格付への影響、返済期限の分散、次の危機・次の投資への余力。
実務資料ではこう出てくる英語だけを見ても分かるように
  • 「Existing Debt を Refinance する」→ 既存有利子負債を借り換える。
  • 「Existing Debt の Change of Control 条項」→ 既存の借入契約にある支配権変更条項。会社の株主構成が大きく変わると一括返済を求められうる。M&Aの前に必ず確認する。
  • 「Pro forma Debt」→ 取引後を仮定した有利子負債(既存+新規)。
  • 「EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)」→ 利払い前・税引き前・減価償却前利益。本業の大まかな稼ぐ力を、資本構成や設備投資の違いに左右されにくい形で見る指標。
  • 「Net Debt / EBITDA」→ 純有利子負債÷EBITDA。負債の重さをおおまかに測る指標。

よくある間違い

  • 買掛金や未払金まで「負債だから」と含めてしまう。既存有利子負債は利息の付く負債だけ。
  • リース債務を忘れる。会計基準によってはリースが負債として計上され、有利子負債に含めて分析される。
  • 現金を差し引いた純有利子負債と、差し引かない有利子負債を混同する。資料ではどちらを指しているか必ず確認する。
次に学ぶ
銀行借入の基本と交渉
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情報源
  • 財務諸表等規則(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則)(発行:金融庁/laws.e-gov.go.jp/law/338M50000040059/2026年9月確認)-借入金・社債の表示区分、1年基準の根拠
  • 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(発行:企業会計基準委員会(ASBJ)/asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=157/2026年9月確認、2024年9月公表)-リース債務の計上の根拠
  • 企業会計基準委員会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」(発行:企業会計審議会/asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=85/2026年9月確認)-利息の表示区分(営業活動または財務活動)の選択適用の根拠
  • 財務省「過大支払利子税制の概要」(発行:財務省/mof.go.jp/tax_policy/summary/international/335.htm/2026年9月確認、令和元年度税制改正後の現行制度)-過大支払利子税制の制度概要(対象純支払利子等の額が調整所得金額の20%を超える部分を損金不算入とする現行制度)の根拠
最終更新日:2026年9月5日|数値は架空企業の設定値です。金利水準は例示であり、実際の条件は個別の契約によります。