利益と現金は、
別のものです。
売上は「売った日」に、現金は「入金された日」に動きます。
Q. 黒字なのに、なぜ会社のお金がなくなるのですか?
利益は「売った・使った」を記録した計算結果で、現金は「実際に入った・出た」お金です。この2つの差を生むのが、売掛金・在庫・設備投資・借入返済の4つです。
お金がなくなる4つの理由
まず、利益と現金は何が違うのか
損益計算書の利益は、「商品を納品した日」に売上を、「材料を使った日」に費用を記録して計算します。お金が入った日・出た日ではありません。一方、現金は銀行口座に実際に入金・出金された日にしか動きません。
4つの理由を、一つずつ
株式会社さくら(売上高100億円)のある年度。利益は5億円でした。ところが現金は3億円減りました。
理由1:売掛金が増えた(売ったのに、まだもらっていない)
売上が伸びて、売掛金が前年より4億円増えました。売上には計上されて利益になっていますが、4億円分はまだ口座に入っていません。
理由2:在庫が増えた(買ったのに、まだ売っていない)
受注増に備えて材料と製品の在庫を2億円増やしました。在庫は「買ったときに費用にならず、売れたときに費用になる」ため、利益は減りません。しかし現金は買った時点で出ていきます。
理由3:設備投資をした(費用は少しずつ、支払いは一度に)
5億円の生産設備を購入しました。設備は何年も使うので、費用は減価償却費として毎年少しずつ計上されます。この年の減価償却費は3億円ですが、支払った現金は5億円です。
理由4:借入金を返した(費用にならないが、現金は減る)
銀行からの借入金を1億円返済しました。借りたものを返しただけなので費用にはならず、利益には影響しません。しかし現金は1億円減ります。
数字で見る:利益5億円が、現金−3億円になるまで
費用だが現金は出ていない
買ったのにまだ払っていない
この並べ方は、決算書の一つであるキャッシュフロー計算書の形そのものです。「利益から出発して、現金との差を調整していく」この形を覚えると、決算書が読めるようになります。
キャッシュフロー計算書の形で見る営業・投資・財務の3区分
| 項目 | 金額(億円) | 理由との対応 |
|---|---|---|
| 当期の利益 | +5.0 | 出発点 |
| 減価償却費を足し戻す | +3.0 | 理由3の前半 |
| 売掛金の増加 | −4.0 | 理由1 |
| 在庫の増加 | −2.0 | 理由2 |
| 買掛金の増加 | +1.0 | 逆に現金を助ける |
| 営業活動によるキャッシュフロー(本業で生んだ現金) | +3.0 | |
| 設備投資の支払い | −5.0 | 理由3の後半 |
| 投資活動によるキャッシュフロー | −5.0 | |
| 借入金の返済 | −1.0 | 理由4 |
| 財務活動によるキャッシュフロー | −1.0 | |
| 現金の増減 | −3.0 | 利益+5億円なのに現金は−3億円 |
学習用に簡略化しています。実際のキャッシュフロー計算書(間接法)は税引前利益から出発し、法人税の支払額や利息の受払いなども調整します。
3つの視点で見る
増えた売掛金と在庫は「健全」か。
- 売掛金の増加は売上増か、回収遅れかを取引先ごとの期日で確認する。
- 在庫の増加は計画的な積み増しか、売れ残りかを確認する。
設備投資を、なぜ手元現金で払ったのか。
- 設備投資5億円を長期借入で賄えば、現金は減らなかった。
- 売上成長で運転資本が増え続けるなら、融資枠や長期借入で構造的に手当てする。
この現金減少は「計画どおり」か。
- 成長投資期なら利益5億円・現金−3億円は正常なこともある。問題は事前に計画していたかどうか。
- 投資した5億円が将来どれだけ現金を生むかを説明できるか。
仕訳で確認する現金が動く仕訳と、動かない仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 1,000万円 | 売上高 | 1,000万円 |
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,000万円 | 売掛金 | 1,000万円 |
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 借入金 | 1億円 | 現金預金 | 1億円 |
では、どうすればいいのか
- 資金繰り表を作る:利益ではなく現金の予定を月ごと・週ごとに見える化する。→ 資金繰りとは何か
- 大きな支払いは資金の種類を合わせる:設備投資は長期借入で、運転資本の増加は融資枠で。
- 回収を早く、在庫を少なく:営業・購買を巻き込む全社の仕事。
- いざというときの備え:当座貸越や融資枠を、困る前に用意する。→ シミュレーション
よくある間違い
- 「利益が出ているから配当や賞与を増やして大丈夫」と、現金を見ずに決めてしまう。
- 「減価償却費は現金が出ない費用だから気にしなくていい」と考える。設備を買った年には大きな現金が出ている。
- 「借入返済は費用ではないから資金繰りに影響しない」と考える。費用ではないが、現金は確実に減る。
- 企業会計基準委員会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」(発行:企業会計審議会/asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=85/2026年9月確認)-間接法(利益に減価償却費・売上債権・棚卸資産・仕入債務の増減を調整する表示)の根拠
- 企業会計原則(発行:企業会計審議会/asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=81/2026年9月確認、最終改正1982年4月20日)-発生主義・実現主義による収益費用の認識の根拠