「もし、最悪が重なったら」
を、数字にします。
想定するだけでなく、試算します。
ストレスシナリオ分析(発展)
「必要手元資金の決め方」で使ったストレスシナリオを、実際に1つ設計してみます。悪い事態を、思いつきではなく、具体的な数字として組み立てます。
1つのシナリオを、数字にする
さくらグローバルで、次のシナリオを考えてみます。「主力製品の需要が落ち込み、売上が3割減少し、同時に大口取引先が倒産する」というシナリオです。
| 要因 | 資金への影響 |
|---|---|
| 売上30%減 | 営業キャッシュフローが月30億円減少 |
| 大口取引先の倒産 | 売掛金50億円が回収不能 |
| 格付低下の可能性 | 新規借入の金利上昇、借換えの難航 |
「6か月耐えられるか」を試算する
この試算では、通常どおり営業が続けば手元資金500億円はほぼ横ばいで6か月後を迎える、と仮定します。そのうえで、ストレスによる減少分だけを差し引きます。「営業キャッシュフローが月30億円減少」とは、通常より月30億円少ない状態が6か月続くという意味で、合計180億円の減少です。これは実際の営業キャッシュフローの金額そのものではなく、通常時との差額(減少額)である点に注意してください。
この試算で分かるのは、「180億円の営業CF減少と50億円の回収不能を単純に合算すると、6か月後の期末時点の試算残高はプラス270億円になる」ということだけです。この数字だけでは、「6か月間、持ちこたえられる」と断定することはできません。理由は次のとおりです。
①要因の重複が未確認:この試算は、「180億円の営業CF減少」と「50億円の売掛金回収不能」が、重複せず別々の要因であることを前提にしています。売上30%減による通常取引の落ち込みと、特定の大口取引先の倒産による貸倒れは、原因が別のため通常は重複しませんが、実際に分析する際は、同じ売上減少を二重に差し引いていないかを必ず確認してください。
②基本計画のCFが不明:「手元資金500億円はほぼ横ばいで6か月後を迎える」という前提(通常の営業活動によるキャッシュフローの見通し)自体が、ここでは仮置きです。実際の基本計画のキャッシュフローを確認しないまま、この試算だけを根拠にはできません。
③一時点の残高しか見ていない:270億円はあくまで6か月後という一時点(期末)の残高(試算)です。期間の途中で賞与や納税などの支払いが特定の日に集中すれば、期末残高がプラスでも、その支払日には一時的に資金が不足することがあります。期間中の最低残高、支払いが集中する日(支払いピーク)、そのときに使える未使用の融資枠を確認して初めて、実際に耐えられるかどうかが分かります。
もし試算結果がマイナスになれば、それは今のうちに対策(融資枠の追加確保など)を検討すべき明確なサインです。しかし、プラスの試算結果は、それだけでは「安全」を意味しません。上記①〜③を確認して初めて、「耐えられる」かどうかを判定できます。
シナリオは、複数用意する
1つのシナリオだけでなく、「緩やかな悪化」「急激な悪化」など、複数の厳しさのシナリオを用意し、それぞれで手元資金が持つかを確認するのが一般的です。これにより、「どのレベルの悪化までなら、現状の備えで耐えられるか」を把握できます。
この結論の、どこに問題があるか
新人担当者が、この試算をもとに次のようなレポート案を作りました。
「売上30%減・大口取引先倒産のシナリオを試算した結果、6か月後の残高は270億円のプラスとなった。したがって、このシナリオが実際に起きても、さくらグローバルの資金は6か月間安全に持ちこたえられると結論づけられる。」
確認問題
- 一般的な企業のストレステスト・シナリオ分析手法に関する解説