「利益が出ている」だけでは、
まだ半分しかわからない。
いくら投じて、いくら生んだかを見て初めて判断できます。
投下資本利益率(ROIC)とは何か
レベル0で見た損益計算書の利益は、「いくら儲かったか」を示しますが、「いくら元手を使って、その利益を生んだか」までは示しません。投下資本(借入+株主資本で事業に投じたお金)に対して、どれだけ利益を生んだかを示す割合が投下資本利益率(ROIC)です。
ROICと資本コスト(WACC)を比べて、初めて意味がわかる
ROICが7.5%だと聞いても、それだけでは「良い」のか「悪い」のか判断できません。前の記事で見た資本コスト(WACC)と比較して、初めて意味を持ちます。ROICが資本コストを上回っていれば、事業は調達コストを上回る利益を生んでおり、会社の価値を増やしています。下回っていれば、たとえ黒字であっても、会社の価値を減らしていることになります。
さくらホールディングスの例(設定値)。ROIC 7.5%が資本コスト5.6%を上回っており、投下資本6,000億円に対して価値を生み出している状態です。
ただし、単年度のROICだけを見て、個別の投資案件の採否を機械的に決めるのは危険です。ROIC>WACCは価値創造を考えるうえでの重要な目安ですが、実際の投資判断では、将来のキャッシュフローの見通し、投資期間、新規事業なら軌道に乗るまでの立ち上げ損失、事業ごとのリスクの大きさ(リスクが高い事業ほど、要求される利回りも高くなる)、資金調達の制約なども合わせて見る必要があります。
ROE(自己資本利益率)との違い
似た指標に自己資本利益率(ROE)があります。ROEは株主資本だけに対する利益率で、借入を増やすほど(他人資本を使うほど)数値が上がりやすい性質があります。一方、ROICは借入+株主資本の全体に対する利益率のため、資本構成(借入の多さ)に左右されにくく、事業そのものの収益力をより素直に表します。CFOは、両方の指標を組み合わせて事業と資本構成の両面を見ます。
3つの立場から見るROIC
投下資本の計算に使う数値は正確か。
ROICの計算には、税引後営業利益・有利子負債・株主資本といった決算書の数値が使われる。正確な決算が土台になる。
事業別・子会社別のROICは把握できているか。
グループ全体だけでなく、事業や子会社ごとのROICを把握することで、資金配分の優先順位を検討する材料になる。
この事業に、資本を投じ続けるべきか。
ROICが資本コストを継続的に下回る事業には、追加の資本を投じるべきか、縮小・撤退すべきかを判断する。
実務資料ではこう出てくる英語だけを見ても分かるように
- 「ROIC(Return on Invested Capital)」→ 投下資本利益率。"ROIC exceeds WACC" → 投下資本利益率が資本コストを上回っている=価値を生んでいる状態。
- 「Invested Capital」→ 投下資本(借入+株主資本)。「Capital Employed」も同様の意味で使われる。
- 「Value Creation」→ 価値創造。ROIC>WACCの状態を指すときによく使われる表現。
演習|ROICを計算し、意味を判断する(演習専用設定)
さくらホールディングスとは別の、演習専用の会社(C事業部門)を考えます。C事業部門の投下資本は800億円、税引後営業利益(NOPAT)は52億円、C事業部門に適用する資本コスト(WACC)は6.0%だったとします。
確認問題
- ROICの計算式(税引後営業利益÷投下資本)自体は、特定の法令・会計基準が定める制度用語ではなく、コーポレートファイナンスの一般的な理論です。単一の一次資料(法令・会計基準等)はありませんが、計算の仕組み自体を確認できる資料として、Wall Street Prep「Return on Invested Capital (ROIC)」(発行:Wall Street Prep, Inc./wallstreetprep.com/knowledge/roic-return-on-invested-capital//2026年9月確認)を根拠資料とします。同資料はROIC=NOPAT(税引後営業利益)÷投下資本という、本記事と同じ計算式を明示し、「ROIC>WACCなら価値創造、ROIC<WACCなら価値破壊」というROICと資本コスト(WACC)の比較による判断方法も説明しており、本記事の計算式・比較判断の根拠として直接確認できます。
- 経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」プロジェクト最終報告書(伊藤レポート)(発行:経済産業省/meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf/2026年9月確認、2014年8月公表)-資本コストを上回る資本収益性を重視すべきという実務的な考え方の背景